雨が止むまで(R18)
性描写を含むので閲覧できるのは実年齢18歳以上の方のみです。
唸るような警音が耳に入った。それから何拍か遅れて銃声が聞こえた。
カーテンの外側、そのずっと遠くで起こっていることを想像して蔵内の意識がこちらに引き寄せられた。
そんなことに気を取られていると今度は自分の真下でベッドが軋んだ。肺が圧迫されて息が詰まる。うつ伏せになっている蔵内に水上がのしかかったからだ。
今まで他人の身体に触れる機会がなかったせいか、彼がまとう飄々とした雰囲気のせいか、初めて彼を受け止めたとき、その重量に驚いたものだ。自分よりいくらか背が低く、体重が軽いといっても、彼は体躯相応の重みと熱を伴って存在している。それを実感すると蔵内の心はひどく安堵した。機械のような冷徹さで指示を出す頭脳の持ち主はきちんとした生身の人間だと分かるから。
うなじに熱い息がかかった。はぁはぁと浅く早く繰り返される呼吸だけ聞くと獣のようだった。
標的に覆いかぶさった水上が蔵内の脇の下へと手を伸ばした。敷き布団と蔵内の胸の間に手を差し入れた。湿った掌が蔵内の首の付け根や胸を撫でていく。
「ちょい、休憩や。何か考えとん?」
耳元で問いかけてくる声はしっとりと濡れていた。蔵内の胸を撫で回していたいたずらな手が突起を掠った。じんと痺れるような衝撃が背骨に伝わった。最初からぴんと伸びていた爪先が反るように力む。
「……、防衛任務の音が、……聞こえる」
「やろ? 夜中は特にうるさいねん。蔵っちの家までは届かんか」
「……ああ」
警戒区域のかなり離れた場所にある蔵内の実家はこんな騒音とは無関係だった。ボーダーが管理する寮に引っ越したときからずっとこうだったと言う水上は全く気にしていないらしい。蔵内はこの音を聞く度に防衛任務にあたっている部隊のことを思い浮かべてしまうが、そのうち変わるのだろうか。水上の家に上がるのは片手で足りないくらいだがまだ慣れそうにない。
蔵内の視線が室内を彷徨う。六畳ほどの部屋は白い壁紙で覆われて清潔感がある。もっとも、今はカーテンを閉めて、灯りも落としているせいか薄暗いが。ラグとローテーブル、それと脱ぎ散らかした二人分の衣服が落ちた床。整頓された教科書と卓上カレンダーが置かれた学習机。
考査期間や防衛任務のシフト、ランク戦の予定がびっしりと書き込まれたカレンダー、その余白が逢瀬の日だった。今日が終われば次は二週間後になる。
毎日のように顔を合わせているのに、いざまとまった時間会おうとするとままならないことに不自由さを感じた。行為の最中にこんなことを考えてしまう程度には。
「っは、」
苦悶の吐息が漏れる。揉みしだくような乳房なんてないのに、水上の手はずっと蔵内を撫でていた。固く充血した乳首をつまんだりこすったりしているが、敷き布団が邪魔をするせいで愛撫はぎこちない。
脚を開いた水上が蔵内の両脚を挟み込んで力を入れた。強制的に閉じさせられ、内股や身体の内部がぎゅっと締まる。すると体内に埋まっている水上の存在を強く意識した。
浅い角度で緩慢に揺すられる。もっと強い刺激を欲して胸が鳴る。待ちきれない。
「そろそろ、動いてくれ」
「了解」
根負けした蔵内が水上に願うと彼はあっさり従った。ゆるゆると上半身を起こす気配がする。首筋や背中にいくつか落ちた生温かい水滴はおそらく彼の汗だ。胸を弄んでいた水上の手は脇腹を経て臀部に辿り着いた。
蔵内の腰に馬乗りになった水上はその厚い尻たぶを鷲掴みにして左右に分けた。長身の男の大きな手にも収まらない豊かな肉の奥、水上を咥えこんでいる穴が露わになる。
秘部に冷たさを感じた次の瞬間、背後で空気が揺れた。どん、と腰を叩きつけられて蔵内の視界が揺れた。
「あっ……、っ!?」
小休止していたところにいきなり最奥を抉るようにされてはたまらない。結合部から身体の末端まで大きな波が押し寄せた。待ちわびた快楽に臓腑が沸き立つ。繋がりが深くなり、彼の形や大きさを蔵内はしっかりと感じ取った。
皮膚と皮膚がぶつかり合う音が部屋中に響いた。腰に強い衝撃が伝わる。じゅくじゅくと腹の中で音がした。捏ね回されたローションが泡状になって結合部から溢れる。
揺さぶられる度にシーツに押しつけられた陰茎が擦れ、前と後ろからの刺激に耐えかねた蔵内は枕を抱きしめた。
隘路を抜けた雁首が容赦なく蔵内の中をかき回す。あ、あ、と自分のものとは思えない高い声が出る。
鼓動が大きくなった。こめかみが、首筋が、腹の奥が、どくどくと脈打つ。
目をつむると眦から涙が溢れた。闇に閉ざされているはずの視界は激しく明滅を繰り返す。
蔵内は全身を震わせると同時に水上も動きを止め、被膜越しに達した。
「ほら」
ペットボトルを差し出されたので礼を言って受け取った。たった五百mlなのに随分と重く感じたのは疲労のせいか。
蔵内がベッドの奥の壁にもたれかかっている間も、水上は使用済みスキンの処理をして、タオルや水分を用意するなど手際よく動いていた。
「まだぬくいな」
隣に座った水上の掌が蔵内の胸元に触れた。彼の手はひんやりしていた。自分の身体が熱いのか、彼が冷えているのか判断できない。
「今夜は泊まっていき、って言いたいけど」
「親に言ってない」
「やろな。せめて雨が止むまでおったらええ。ちょっと前に降り始めたけどそんなに続かんやろ」
「天気予報になかったが」
「ただのにわか雨や。この寮は壁が薄いから雨音も聞こえんねん。そのうち蔵っちも分かるようになるわ」
ペットボトルをヘッドボードに置いた。身体を動かしたついでに水上の腕を引っ張る。おい、と咎めるような声色だったが彼は大して抵抗することなくベッドに倒れかかった。二人では狭いシングルベッドに蔵内も横たわった。
水上の髪を撫でつける。手櫛を通すと内部は湿気があった。
「もう少しいていいんだろう」
「おん」
蔵内が水上の頬に手を寄せると顔をすりつけてきた。まるで犬や猫のようで、ただそれだけのことなのに、蔵内は声にして笑った。